福岡県遠賀郡芦屋町。この静かな海辺の町に、絶望的な火災から焼け残ったたった一つの大鍋を囲み、歩みを進めてきた親子がいます。
今回ご紹介するのは、地元で愛され続ける手作り佃煮「きみしゃんいりこ」を手がける『きみしゃん本舗』です。旅館の全焼、そして現在進行形で向き合う病ーー
幾多の困難を乗り越え、2026年に芦屋町ブランド認定品「金賞」を受賞した新商品誕生までの軌跡と、前を向いて進み続ける親子の熱い物語に迫ります。
焼け跡から見つかった「奇跡の鍋」と再起への道のり

製造所へ足を踏み入れると、厨房の奥に鎮座しているのは長年使い込まれて年季の入った大きな鉄鍋。

画像提供:きみしゃん本舗
実はこの鍋こそが、「きみしゃん本舗」の原点であり、希望の象徴でもあります。

母の渡辺紀美子さんは、芦屋町で40年間愛された割烹旅館『加津浦』の女将でした。しかし2012年、悪夢のような大火災が旅館を襲い、建物は全焼。

画像提供:きみしゃん本舗

画像提供:きみしゃん本舗
多額の負債を抱え、途方に暮れていた焼け跡の片付けの中、奇跡的にも無傷で見つかったのがこの大鍋だったのです。
「これを見た時、神様がこれでいりこの佃煮を作れと言っているんだなと思ったんです」。
紀美子さんは当時を振り返り、優しく微笑みます。

その大鍋を使い、旅館の朝食で提供して大好評だった手作りの佃煮を「きみしゃんいりこ」として販売を開始。

画像提供:きみしゃん本舗
芦屋町の人々の応援と支えもあり、保存料などの添加物を一切使わないそのおいしさは口コミで広がり、今や全国からお取り寄せの注文が入る看板商品へと成長を遂げました。
あの頃の味をもう一度。「ひじき釜めし」が2026年金賞を受賞!

画像提供:きみしゃん本舗
そんな奇跡の復活を遂げた親子の次なる挑戦が、旅館時代に愛された味の“復刻”でした。
当時、宴会の締めに一人用の「おくど(釜)」で提供され、お客様から絶賛されていた「ひじき釜めし」。お酒の席の後でも不思議と箸が進み、わざわざ家族を連れて食べに来るお客様がいたほどの大人気メニューでした。
二代目きみしゃんである息子の渡邉公義さんは、「あの頃の味を、家庭でも手軽に味わってもらいたい」と奔走。10年以上前から商品開発に取り組み、芦屋町で乾燥ひじきを生産する山形年春さんの絶品ひじきを使用するという、原点回帰の「復刻 芦屋加津浦ひじき釜めしの素」をついに完成させました。

画像提供:きみしゃん本舗
炊飯器にお米とお水と一緒に入れて炊くだけで、部屋中に広がる豊かな鰹だしの香りと、肉厚で歯ごたえ抜群の芦屋産ひじきの旨み。この普遍的なおいしさと親子の熱い想いが評価され、見事「2026年度芦屋町ブランド認定品」の金賞を受賞したのです。
「選ばれた時は、本当にただただうれしかったです。苦労した母の夢が実現して、親子の努力が報われた瞬間でした」と、公義さんは喜びを噛み締めるように語ってくれました。

“病は神様からのプレゼント”前を向く二代目の挑戦

お客様から寄せられたお手紙 画像提供:きみしゃん本舗
金賞受賞という輝かしいニュース。しかし、その裏側で公義さんは現在、肺がんステージIVという重い病と闘っています。2026年の6月に発覚し、抗がん剤治療による入院と退院を繰り返す日々。さらには闘病中にお父様との別れも重なるという、言葉では言い表せないほどの過酷な状況に直面していました。
それでも公義さんの表情は驚くほど明るく、声には確かな力が宿っています。
「病気になってみないとわからないこともあります。今まで忙しすぎて立ち止まることができなかったけれど、これは神様からのプレゼントだったのかもしれないと、今はそう思えるんです」
お見舞いに訪れた古くからの友人が、逆に公義さんの吹っ切れた笑顔と前向きな姿勢にパワーをもらって帰っていくのだそう。
「自分や母がメディアに出たり、こうして取材を受けたりすることで、同じように病気で落ち込んでいる人に『こんな風に立ち直れるんだ』『前を向けるんだ』と少しでも勇気を与えられたらうれしいです」と語る公義さん。病を言い訳にせず、むしろそれをバネにして進み続ける姿に、胸が熱くなりました。
芦屋の恵みと感謝を込めて。食卓に寄り添うこれからの夢

いりこへの感謝や海の安全、豊漁を祈願するいりこ供養祭 画像提供:きみしゃん本舗
「お金儲けではなく、人のつながりがあるからこそ頑張れるんです」
そう語る親子の今後の目標は、自社の商品が全国の旅館やホテルの朝食、そして一般家庭の食卓に当たり前のように並ぶこと。そして、大好きな芦屋町への恩返しとして、地域を代表する名物へと育て上げることです。

帰り際、「出来立ては味が違うから」と、先ほどの奇跡の大鍋で炊き上がったばかりの「きみしゃんいりこ」を味見させてくれました。口に入れた瞬間、サクッとした食感とともに広がる香ばしさと、絶妙な甘辛さ。ただおいしいだけではない、幾多の困難を乗り越えてきた親子の温かさと強さが、じんわりと心に染み渡る味わいでした。

「食べる御守りいりこ」はきみしゃんいりこプレーン(60g)を元に、いりこと縁起を掛け合わせたギフトに最適な商品。 恋愛成就や金運財運など、相手を想い気持ちと共に贈ることができます。


火災からの再起、そして病との闘い。どんな逆境にあっても決して笑顔を絶やさず、感謝の気持ちを忘れないきみしゃん本舗の物語は、これからも力強く続いていきます。ぜひ皆さんも、食卓に笑顔を運んでくれる希望の味を、じっくりと味わってみてくださいね。(※取材・撮影:博多あや.)




